鍵赫~お得なまとめセット!


お疲れ様です。

鍵赫完結記念に、一気読み版をご用意しました!

是非読んでいただければ…幸い!

ところで、話は変わりますが。

月ノ美兎様が作成されたフリーゲーム、「にじ診断」がfreem様で公開中!

リンクはこちら。

https://www.freem.ne.jp/win/game/26860

動画で語っておられますが、裏話を聞いてからやるのも一興。

ちなみに私の診断結果は、サービス精神旺盛なアンジュカトリーナ様でした!

けっこう見ているライバー様だったので、素直に嬉しい。

では、お待ちかね?

鍵赫まとめ版です!1話から10話まで、完結版です。

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うだるような暑さが続く。

僕は通い慣れた大学の食堂から、外を見る。

学力には自信がなかったが、なんとか浪人することなく入った大学生活も、3年が経とうとしていた。

何気なく最近インストールしたSNSアプリ、「幸せの文鳥」を起動する。

流行の写真自慢が集まるものや、低俗な動画がはびこるSNSよりちょっとマイナーだが、文章だけでやりとりするそれは、僕好みだった。

「光弘君、何見てるの?」

不意に聞き覚えのある声が僕の名前を呼んだ。

「え、別にただのアプリだよ」

僕は気恥ずかしくなり、声の主からスマホを隠す。

悲しいオタクの習性だ、なにも見られて困るものはないのに、プライベートなものは隠したくなる。

「今のって、幸せの文鳥じゃない?今時珍しいね!」

めざとく画面が見えたらしい。まあ、一目見ればわかるようなデザインではあるけど。

「うん、慶子さんもやってんの?俺はほぼ、読むだけなんだけどさ。」

慶子さん。大学1年からの顔なじみだ。

正直、僕が現実世界で話せる唯一の女性だ。…母親を除けば。

慶子さんは美人だし、優しい雰囲気がある女性で、僕にかまってくれるのが不思議なくらいだが。

なぜか、講堂や食堂で孤高を保っている、もとい「ぼっち」な僕なんかに話しかけてくれる。

「やってるよ~!私は好きな動画サイトとか、好きな芸能人のグループなんかに入ってるかな~」

特にそこまで聞いてないけど、どう使っているかまで教えてくれた。

「動画サイトか…YourWaveなら僕も見てるけど、グループなんてあるんだね。」

適当な返事を返してその場を乗り切ろうとした僕は、興味ありげに顔をのぞき見る慶子さんにぎょっとする。

「うわっ!」

綺麗な女性が、手で触れられる距離まで顔を近づけている。

慣れない状況に、僕は大げさなまでに驚いてしまった。

「あ、ごめーん!私も YourWave好きで、つい反応しちゃった! 」

しまった、そりゃそうか。 YourWave は全世界に視聴者がいる動画サイトだ。ここはよりディープな「にっこし動画」あたりでお茶を濁すべきだった。

「ねぇねぇ、どんな動画見てるの?」

逃げ場を失った僕は、はやくこの場を切り上げる回答を必死で考える羽目になった。

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どんな動画見てる、か。

正直、僕みたいな人間が回答するのに一番気を遣う質問だ。

まだ好きな芸能人とか、アイドル聞かれた方がマシ。

あんまり知らない、で済ませられるからだ。

だが、動画サイトを見てると答えた手前、答えないわけにもいかない。

「うーん…マイナーなのばっかりだよ。たぶん、慶子さんは知らないと思うけど…」

僕は、あからさまに拒絶してみせた、つもりだった。

「へぇー!マイナーなのが好きなのね。私はけっこうオタク趣味なんだよ、最近はVtuberなんか見てる!」

「え…Vtuberって、あのバーチャルの人?」

「そうそう、知ってるの?」

あまりにも予想外な、慶子さんの発言にあっけにとられた。

こんな普通の、いやきれい目な女子大生がVtuberを見る時代なのか。

てっきり女子大生が見るのは有名な配信者、まああっても歌い手くらいだろうと思ったが…

「僕もVtuber見てるよ。ゲーム実況とか雑談とか、ながら見できるから。」

慶子さんは目を輝かせ、その綺麗な顔をますます近づける。

その瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えつつ、僕は質問する。

「慶子さんは、ちなみに誰の配信を見てるの?」

「私はねぇ~…いろいろ見てるけど、最近は周央モモンゴちゃんかな!」

「え!?モモンゴちゃん?噓でしょ?」

僕はこれまで20年近く生きてきたが、一番に近いくらいの心理的衝撃を感じた。

周央モモンゴ。

流行りのVtuber業界の中でも、かなり異質な存在だ。

見た目は可愛い女の子だが、口を開くと超高速で呪文のようにオタク趣味を展開する、独自路線を突き進む配信者。

はっきり言って、ディープな層しか見ないだろう。ライト層なら、たぶんついていけない。

しかし、奇しくもそれは、僕の推しでもあった。

「…僕もモモンゴリスナーだよ、可愛いよね。でも、めちゃめちゃマニアックじゃない?」

慶子さんは、その大きな瞳の瞳孔を、これでもかと大きくする。生理的な反応のはずだけど、自在に操っているかのように。

「マニアックなのがいいんじゃない!でも君も好きなんて、なんか運命的じゃない!?グループ誘っていい?一緒に推し活、しようよ~」

僕に断る理由もなく、「幸せの文鳥」を開いた。

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講義が始まるため、学部が違う僕と慶子さんは話を切り上げ、それぞれの講堂に向かった。

その後平凡な日常を送った僕は、足早に家に帰る。

家に帰るなり「幸せの文鳥」を起動した。

慶子さんから「モモンゴ推すンゴ」なるグループに招待されている。

彼女から「入るンゴ!」とだけメッセージが来ていた。

本名で登録していたのが仇となった形だ。まさかここまで早くアカウントをかぎつけられるとは…

慶子さんは、「Kちー」なるアカウント名だった。さすがに女子大生だけあって、本名で登録はしていなかった。まぁ、僕には状況から彼女が慶子さんであることはわかるのだけれど。赤の他人からはわからないだろう。

「モモンゴ推すンゴ」のグループでは、他愛もない会話が繰り広げられていた。

僕は挨拶程度の文を書き込むと、グループにどんなメンバーがいるのか確認することにした。

流行りのVtuberとは言え、比較的マイナーな「周央モモンゴ」のグループである。今何人くらいの人がアクティブに活動しているのか気になる。

グループ所属アカウント数は、ざっと50人弱だった。アカウント名から男女の区別はできないが、男性のものと思われる書き込みが多い気がする。

その中に3人、鍵付きのアカウント、いわゆる鍵アカが存在した。

このSNSでは、鍵アカは「フォロー」しなければ、その発言を見ることができない。発信先を絞ったり、無用な炎上をしたりを防ぐ効果があるといわれている。ただし、プロフィールは閲覧できる。

推し活グループに鍵アカで入る意味が正直わからないが、とにかく3人は鍵アカだった。

一つ目のアカウントは「モモ好きおじさん」というもの。まあ、オタクのおじさんなのだろう。プロフィール画像はモモンゴのアップで、絵に描いたようなオタクおじさんだ。

二つ目のアカウントは「ゲマ女子」。ゲームが好きらしい。名前から察するに、若い女性だろう。プロフィール画像は、猫だった。まぁ、これもありがち。

三つ目のアカウントは「闇からの使者」。自殺願望があるらしい。詳しい事情はわからないが、近づきたくないアカウントだ。プロフィール画像は真っ黒だった。

鍵アカなんてどうでもいいか…慶子さんのアカウントはオープンなわけだし。とりあえず大学生活を無難に送る上では、なにも支障はない。

彼女には、「招待ありがとう、今後ともよろしく!」と一応のお礼メッセージを送った。

…あまり、プライベートで女性、それも同年代と話したことがない僕は、距離感がわからない。

もちろん女性に興味はある。しかし、オタク趣味を前面に出したくはない。

僕は、自分でも嫌気が差すくらいに女性慣れしていないのだ。

趣味が一緒なら、そこから仲良くなれるのでは?でも、気持ち悪いなんて言われたくない。

慶子さんから大学の連中に僕の趣味がばれたら、それこそめんどくさい。目立たないように生きてきたのに。

あれこれ悩みながら、僕は意識を失い、深い睡眠に入っていった。

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慶子さんからグループに誘われた翌朝。

僕は、いつもの如く大学に向かった。

午前中の講義を終え惰性で食堂に向かう。

食堂で昼食をとることに意味もないのだが、なんとなく一人でいることに耐えられない僕は、せめて人混みの中に自分を置こうとしていた。

人混みの中の孤独の方が、人がいない状況での孤独より辛いと言われるけど、僕はそうは思わない。

雰囲気だけでも、賑やかな環境に身を置きたいのだ。

とりとめもないことを考えていると、慶子さんが食堂に入ってくる。相変わらず綺麗な身なりだ。

グループに誘われた後だし、なんとなく意識してしまう。

そんな僕の気持ちを察知したのかはわからないが、慶子さんは話しかけてきてくれた。

「光弘君、こんにちは!昨日はありがとうね!」

話しかけて来るのはわかっていたはずなのに、やはり同年代の女子に話しかけられると緊張する。

声が上ずらないように気をつけながら、返事をする。

「こんにちは、昨日はありがとう。グループ入れたよ、今後ともよろしく。」

「うんうん、よろしくね!グループの人数はまだ少ないんだけど、盛り上げていこうね~」

慶子さんはそう言いながら、僕の隣に座った。

まだ話すことがあるのだろうか?

美人の彼女ができたようで僕は嬉しかったが、なんとなく周りの視線が気になって落ち着かない。

自意識過剰というやつだろうけど。

「そういえば…」

僕は、鍵アカについて聞いてみることにした。

「あのグループ、鍵かけている人もいるよね。なんでだろ。ファングループなら、鍵かける意味もないだろうし…」

「あぁ、何人かいるよね。3人…だったかな?私も全員と知り合いってわけじゃないから、詳しくは知らないんだけどね~」

「知り合いじゃない人もいるんだ。まぁそりゃそうか…」

なんとなくだが。

彼女の表情が一瞬曇ったように感じた僕は、話題を変えようとした。

「昨日のモモンゴちゃんの配信見…」

「光弘君。鍵アカってさ、なんとなく覗きたくならない?私は気になっちゃうほうなんだよねぇ」

不意に遮られ、僕は慌てて話を合わせる。

「あぁ…まあ、なんとなく後ろめたいとか、人に言えないことがあるのかな、とは思うけど…無理矢理みたいとは思わないかな」

しまった。

適当に鍵アカに興味があるようにすれば良かったか。

つい、自分自身があまり干渉されたくない性格なこともあって、否定的な返事をしてしまった。

「うんうん、無理矢理は良くないよね!」

慶子さんはそう言うと、僕を覗き込む。相変わらず綺麗な瞳だが、見透かされそうで空恐ろしくもなる。

「じゃ、またね!」

彼女は機嫌が良さそうに、食堂から去った。

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その後大学での平凡な一日を終え、帰宅した。

しかしやけに機嫌がよさそうだったな、慶子さん。

僕に気があるのだろうか?

そんな勘違いをしてしまいそうになるが、自惚れているだけかも知れない。

経験上期待が外れたら、裏切られたときのダメージは大きくなる。

僕は、自分が傷つくことを極端に避ける癖がある。

悲しい性だが、自分で分かっていても、何かと言訳をつけて人を避けてしまう。

好意を持ってくれているだろうと気を許しても、彼氏がいたりするのだ。

だけど、慶子さんにはもっと積極的になってみるべきだろうか?

あんなに話しかけてきてくれる女性なんて、彼女しかいないわけだし。

僕はスマホを取り出し、例のグループを開く。

すると、メッセージが来ていることに気付いた。

「君もモモちゃんが好きなのかい?」

そのメッセージは、例の鍵アカ三人衆の一人、「モモ好きおじさん」からだった。

…なんだよ、慶子さんじゃない、しかもおじさんかよ。

幾分テンションは下がったが、しかしこのグループでは初めてのメッセージだ。

無視するのも人の道に外れている気がするし、適当にあしらおう。

そう決めた僕は、当たり障りのないメッセージを返す。

「初めまして!モモちゃんファンです、知り合いからグループに誘われたので、昨日入りました。」

送信したそばから、返信が来る。

どうやらよっぽど暇なおじさんのようだ、僕はプロフィールで男性を明記しているのにな。

「そうかい!一緒にモモちゃんを盛り上げようねぇ!ところで、君は彼女がいるのかい?」

…なんだ、藪から棒に。

いきなり恋人の有無を聞くか?それも同性に。

「いや、いないですけど…何か問題あるんですか?」

僕はややムッとしながら返信する。本当は慶子さんにメッセージ送りたかったのだけれど。なんでこんなおっさんに…

「すまないね!別に他意はないんだよ。そうかそうか、君も独り身か、私も独り身でね^_^;」

…典型的なおじさん顔文字じゃないか。

今時本物のおじさんを拝むことになるとは思わなかった。

もう良いか、このおじさんへの返信は。

「どうだろう、君が良かったら相互フォローしないか?私は鍵アカウントでね、フォローしてくれないと私のメッセージを君は認識できないんだよ。」

…こんなに早く相互フォロー関係になるのか?

その鍵アカ、むしろ意味があるのか疑問に思いつつ。

特に断る理由もないので、相互フォローになった。

見事おじさんのアカウントを開けることに成功したわけだが、全く感慨深さはなかった。

気付けば、夜も12時を回っている。

僕はスマホを充電器につなぐと、ベッドに潜り込んだ。

明日こそ、慶子さんにメッセージくらい送るか。

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昼間。

いつものように食堂で時間を潰していると、慶子さんが話しかけてくる。

もはや緊張感も大分なくなってきたわけだが、それでもなんとなく意識してしまう。

「ねぇねぇ、昨日さ。例のグループチェックした?」

「昨日?一応見たけど…モモ好きおじさんって人と話してたな。それ以外は見れなかったよ。…何かあったの?」

彼女はうんうんとうなずきながら口を開く。

「そうそう、光弘君さ。おじさんとずっとやりとりしてたよね!」

ん?

プライベートメールのはずなのに、なんで知っているんだろう?

そんな僕の疑問を察したのか、彼女は話しを続ける。

「私、実はモモ好きおじさんとは相互フォローなのよ。今朝メールが来てて、何かと思ったらさぁ!モモンゴ好きの男の子と友達になれたって、大喜びだったのよ!」

そういうことか。

なら、個人的なやりとりを彼女が知っていることにも合点がいく。

「ああ、そうなんだね。僕は…」

「あ、ごめん!もう行かなきゃ!」

言いかける僕を余所に、慶子さんは食堂を出て行ってしまった。

うーん。

なんとなくつかみどころがないよな、慶子さんって。

まだまだ仲良くなっていない証拠なのかも知れないけれど。

その夜。

今度は、「ゲマ女子」というアカウントからメッセージが届いていた。

だから、僕は慶子さんと話したいんだって。

そう思いながらも、「ゲマ女子」と名乗るくらいだ、さすがに女の子なんだろうけれど。

「あなたは最近入った人?」

いきなりこの感じか。

インターネットの距離の詰め方って、よくわからない。普通初めましてじゃないのか?

「そうです、周央モモンゴファンの友達に誘われて、最近入りました。」

つい慶子さんを「友達」と表現してしまったが、まあ問題ないだろう。

「知人」だとあまりにもよそよそしい気もするし。

「そっか!うちは名前のとおり、ゲーマーなんだけどぉ!モモンゴちゃん可愛いよね!」

そりゃそうだよな、「ゲマ女子」なんだから。ゲーマー以外の由来があるとは思えないわな。

「ゲーマーなんですね、僕も時々やりますよ~」

適当に返事を返しておく。今日こそは、慶子さんに辿りつくんだ。

たかがメッセージを送るだけだが、なんとなく険しい道を進んでいる気がしてきた。昨日といい今日といい、余計な茶々が入り過ぎる。

「え、そうなん!?うちはシミュレーションRPGよくやるよ!ってか、ため口でいいよ!」

「RPGか、女の子では珍しいんじゃない?それじゃ、ため口でいくよ。」

…ダメだ。

また、このまま夜が更けそうだな…

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

なんてこった。

慶子さんにメッセージを送る暇もなく、「ゲマ女子」とメッセージを続けている。

顔も何も知らない人と、やりとりをするのは疲れるんだが。

「女子でVtuber好きって珍しいよね?」

何気なく話を振ってみる。

返信は早かった。その速度は、早いと言うより張り付いているレベルだ。

こんなSNSのやりとりなんて、片手間でやるものじゃないのか?

「いや、そんなこともないっしょ!うちが知ってるだけでも、何人も女子いるはずだし!」

なるほど。

意識してみなかったが、全部が全部おじさんばかりでもないのか。

まぁ、性別なんていくらでも偽れる気はするけど。

「確かに、僕の友達も女子だけど、このグループにいるし。モモンゴファンも幅広いのかもねぇ」

「ねぇねぇ、あなたはモモンゴちゃんの、どの動画が好きなの?」

そう聞かれると、ちょっと回答に困る。

隙間時間とか、レポートの合間に流し見していることが多いからだ。

どっしり腰を落ち着けて、特定の動画を見るって感じじゃないんだよな。

「うーん、ゲーム実況とかをよく見るね。テトリスとかかな。雑談的に飛び出す言葉が面白いと思ってる」

「わかる~!うちは、時間遡行ものが好きなんだよね!ゲーマーとしてはタブーなんだけど、なんか見てると笑っちゃう!」

へぇ…

時間遡行とは、ゲーム機の機能を指し、いわゆる「ズル」ができる機能のことだ。

ソフトとしてはやり直せないミスでも、ハードの機能としてやり直しができるので、「時間遡行」と呼ばれている。

「ところでさ。あなたは今好きな人とかっているの?」

「ん?急に来るね…」

いきなりのプライベートな質問、それに恋愛についてか。

なんて答えたら良いものか?

文字だけのやりとりだと、温度感もわからないので、余計に困る。

「好きな人っていうか、気になってる人はいるかな」

ネット上の知りもしない相手に本音を漏らしてしまう。

「へぇ!良いね!うちも気になる人がいるんだけど、その人の内面がわからないんだよねぇ…」

ゲマ女子なんて名前なのに、恋はしているのか。

要らないツッコミを入れようかと思ったが、やめておく。

「内面かぁ。それは話したり、付き合ってみないとわからないと思う」

「…それは、内面はわからなくとも、とりあえず付き合ってみろってこと?」

うん?ちょっと気に障ったのかも知れない。

「いや、そういうことじゃないんだ。ただ、あんまり気にしすぎてても、機会を逃すというか…気に障ったらごめんね!」

返信来なくなるかな…やってしまったかも知れない。

しかし自分自身が大胆にいけないくせに、人にはまぁ気楽に言えたもんだ。

…返信は相変わらず即だった。杞憂だったらしい。

「あ、そういうことか!対面してないと、難しいねぇ!うちも頑張ってみるよ!そうだ、折角仲良くなれそうだし、相互フォローしない?」

「うん、いいよ」

何はともあれ、僕は「ゲマ女子」の鍵アカウントとも相互フォローに。

どうでもいいが、あと絡んだことのない鍵アカウントは一人だけとなった。

いい加減寝ないと、明日がやばい。

無理矢理気持ちを落ち着かせ、目をつむるのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

明くる日。

大学では慶子さんには会わなかった。

いつも元気な彼女には珍しく、休んでいるようだった。

まぁ、女性は色々あるんだろう。

早々に帰宅した僕は、SNSを開く。

すると、「闇からの使者」と名乗るアカウントからメッセージが来ていた。

…周央モモンゴグループに所属する鍵アカウントの、最後の一人だ。

「ボクは闇からの使者。少し聞きたいことがあるのだが」

1人称が「ボク」か。

こじらせている女子もあるし、男子でもあり得る。

なにより、「闇からの使者」なんて名前がちょっと怖い。

いわゆる中二病なんじゃないか?だとしたら、まともな議論が成り立つとは思えないけれど。

とにもかくにも、返信はしとておくか。

「はい、初めまして。初対面の僕に聞きたいことなんてあるんですか?」

ネットでの交流に初対面なんて言葉が当てはまるのかは知らないが。

「そう。ボク達は、初対面じゃないよ。君は知らないかもしれないけれど」

…ん?

初対面じゃない?

念のため過去のログやメッセージを辿ってみたが、「闇からの使者」なるアカウントとのやりとりはない。

何より、鍵アカウントで見られなくなっているのに、知り合いも何もないもんだ。

「初対面じゃないんですか?僕は心当たりがないんですが…」

「心当たりがないのも無理はない。まぁ、今はどうでも良いことだよ」

いや、どうでもよくはないだろ。

別のネットで絡んだことがある人か?

それともリアルな知り合いか?

だとしたら、一方的に情報をおさえられている状況は、怖い気がする。

「うーん、ちょっと怖いですが。ところで質問ってなんですか?」

間髪入れずに返信が来る。

「率直に言って、君に恋人がいるとしよう。その恋人がもし、辛い過去を持っていたら、君はどうする?」

…なんだこの質問は。

僕に恋人はいないし、仮定するにしても質問の内容が具体的過ぎる。

しかし、少し想像してみることにした。

どっちにしろ、今日は慶子さんとはメッセージ交換なんて出来ないだろうし。

辛い過去か。種類にもよるだろうけど。

「まず、過去について話を聞きたいかな。もちろん、話せる範囲で」

「そうだろうね。では」

不自然なところで話を切るな、この人は。

一体誰なんだろうか。

そんなことを考えていたら、続きの文面がくる。

「それが性的なものだったらどうだろう?例えば、無理矢理ホテルに連れ込まれたとか。親に性的な虐待を受けていたとか」

…性的な問題かよ!

正直、一番苦手だ。

ましてや、恋人がってことだろ?

僕は、いわゆる「処女厨」ではない。

だから、過去に何があろうが受け入れられるとは思う。

しかし。

性的虐待を受けていた人はどうだろう?

「僕は、恋人の過去は気にしないと思う。性的虐待については、かわいそうだと思うけど、どう接すればいいのかわからないっていうのが、本音かな」

難しすぎるだろ、この質問。

同性にしろ異性にしろ、実の親から性的虐待を受けることなんて、あるのだろうか?

仮にあったとして、その傷は癒えるのか。

「君は心が広そうだね。正直意外な回答だったよ」

闇からの使者は続ける。

「ボクは、実は性的虐待を受けたことがあるんだ。実の父親からね」

…この人自身の話か。

いわゆる「かまってちゃん」にしては手が込みすぎている気がするのだけれど。

「そうなんだね、なんかちゃんと回答できなくてごめん。僕の周りでは、聞いたことがない話だから、どう反応すればいいかわからないけれど」

何となくめんどくさい空気を感じつつ、返信したが。

今日の夜も長くなりそうだ。

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「闇からの使者」とのやりとりが続く。

突然の性的虐待カミングアウト。

僕はどう答えればいいのか?

一体、僕は何を求められているのか?

答えはわからないが、誠実に向き合おう。

そう決意した僕に、メッセージが届く。

「光弘君、今暇?」

慶子さんからだった。

待っていた相手からのメッセージではないことに戸惑ったが、やっぱり嬉しい。

「うん、時間あるよ。今日は大学では会えなかったね~」

すぐに返信がくる。

「ありがとう、誰かと話し中じゃなかった?オンラインになってたから…」

SNS「幸せの青い鳥」では、相手のオン・オフラインがわかるようになっている。

だから、相手から返信が来るかどうか、おおよその検討がつくのだ。

「あ、よくわかったね。今、例のグループの人とメッセージ交換していたんだ」

慶子さんに返信した途端、「闇からの使者」からもメッセージが届く。

「ごめんね、引かせてしまったかな?だとしたら申し訳ない」

引く、か。

確かに、いきなり「父親からの性的虐待」をカミングアウトされても、どうにもできない気持ちはある。

だけど、それをカミングアウトしてくれたってことは、僕に何かを期待しているんじゃないか?

そう考えたら、この人を無碍に扱うことはできない。

僕は先に慶子さんに返信することにした。

「ごめん、今日はグループの人とのやりとりに集中してもいい?なんだか真剣な悩みみたいでね」

慶子さんからの返信は早かった。

「大丈夫!じゃ、また今度!」

続いてもうひとつの返信を送る。

「正直驚いたけど。引いてはないよ。むしろ、なんで僕なんかに話してくれたのかが気になっているかな」

「なんでだろうね。ボクのことを知って欲しかったのかも」

「過去の性的虐待が原因で、男性不信になったりすることもあるとは聞いたことがある。確かに世の中の男性には、そういう人もいると思う。けど、そんな人ばかりじゃないって知ってほしい」

…ちょっと押しつけがましいか?

でも、トラウマを抱えた人が、幸せになるのは壁があると思う。

その壁を取り除くのか、忘れさせるのか。

手助けができれば、こんなに嬉しいことはない。

返信がくる。

「うん、ちょっとトラウマにはなっているよ。幸いにも、直接性的な行為をしたわけじゃなくて、体を触られたくらいなんだけど…それでも、男の人が苦手な気持ちが消えなくて」

体に触られたくらい、か。

でも、信頼していた父親に突然そんなことをされたら。

…耐えられないだろうな。

アカウント名の「闇からの使者」ってのも、中二病じゃなくて、本当に闇を抱えて生きている証左なんだろう。

「嫌だよね。身内ならなおさら…どう言えばいいかわからないけれど。無理せず、少しずつ克服していくしかないね」

「ありがとう。ちょっと心がすっきりした。実は、このことを話すのは、君がはじめてだよ。良かったら、今後とも仲良くしてね!」

なんだかわからないけれど、どうにか「闇からの使者」の求めていた答えには辿り付いたらしい。

いや、ただ「地雷」を踏まなかっただけかも知れないが。

「それは良かった!こちらこそよろしく、相互フォローしよう」

気付くと鍵アカウントは僕に開放されていた。

…慶子さんをないがしろにしてしまったが、明日謝ろう。

僕は寝ることにした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

明くる日。

すべての鍵アカウントを解除することに図らずも成功した僕は、今日も大学に来ていた。

ほとんど毎日夜更かしをしていたが、不思議と疲れは感じない。

それどころか、毎日他人と交流することで脳が活性化されているような高揚感で、すこぶる体調が良い。

食事をとっていると、慶子さんが近づいてくる。

「こんにちは、光弘君」

「こんにちは、慶子さん。昨日はごめんね」

僕は、昨日の非礼を詫びた。

非礼と言うには大げさな気もするが、とにかく謝りたかった。

「いやいや、大丈夫だよ~!忙しい時もあるでしょ?」

僕は、ある疑問を彼女にぶつけることにした。

それは「鍵アカはすべて彼女のものじゃないか?」という疑問だ。

決定的な根拠はない。

だがなんとなく、話が出来すぎている気がする。

特に違和感を抱いたのは昨日。

なぜ彼女が、僕のオンライン上の動きを把握できるのか?

オン・オフラインがわかるにしても、誰かとやりとりをしていると思うのはおかしい。

普通に考えれば、鍵アカウントが彼女と同一人物だと考えるのが妥当だ。

SNSのアカウントなんていくつでも作れる時代だし。

「ねえ、昨日なんだけど…慶子さんってアカウント複数持っているよね?」

慶子さんは観念したような表情で、うつむいた。

「いや、責めてるわけじゃないんだ!」

つい声を荒げてしまう。

「うん…バレちゃったかぁ…」

慶子さんは僕の隣に座ると、話を続ける。

「実は、あのグループにいた鍵アカ、全部私なんだ…」

やはりそうなのか。

しかし全部が全部、慶子さんだったとは思っていなかったが。

「そうなんだ…でもなんで、鍵アカなんか使って僕に話しかけてきたの?」

「…光弘君がどんな人か、知りたかったの…でも最初から直接話すのは怖かったから、鍵アカを使ってみたの」

なるほど。

回りくどい気はするけれど、慎重になる気持ちはわかる。

「性的虐待を受けてたって話、ホントなの。だから男の人を見ると震えちゃって…でも、光弘君と話してても、震えなかったの。だから、もっと知りたくて」

「…そうなんだね…話にくいだろうに話してくれてありがとう」

僕は彼女に感謝を込めて、その目を見つめた。

こんな僕に興味を持ってくれている。

それだけでも幸せだ。

その思いに報いたいと思う。

…しかし。

本当の彼女の人格はどこにあるんだろう?

本当の彼女を、僕は見つけられるのだろうか?

どの人格が素の彼女なのか?

恐らく、一生わからないのだろう。

でも、そんなことはどうでもいい。

僕は彼女を精一杯幸せにしたいのだ。

その気持ちに嘘はない。

「さあ、行こう。これからもっとお互いを知らなくちゃ!」

僕は彼女の手を取り、一緒に食堂を後にした。

以上です。

読んで頂き、ありがとうございました!感想などコメントいただけると嬉しいです!


Tidax
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